発車時刻を過ぎて <インド ムンバイからゴアへ②>
夜だが暑い。バックパックと手荷物を持って歩けばなおさらだ。
4台目のバスに近づくと、同じ状況にあると思われる欧米系バックパッカーの女性が、紙を手に運転手と話しているところだった。
彼女のバスではなかったらしい。振り返ったときに目が合い「どこに行くバスを探しているんですか」と声をかけてみた。行き先は同じゴア、時刻も一緒だったが、バス会社が私のとは違う。その女性は心細げだったが笑顔をみせてくれた。ほんのわずか、頼れる人がいない状況で、パニック以外の感情、ひとりきりじゃないというか、シンパシーを感じたのを覚えている。
「あなたのバスに行き当たったら教えますね」と言うと彼女はうなづき、じゃあ私はこっちへ行くわ、とお互い逆方向へ歩き出した。
発車時刻が迫るなか、バスの入り口に立っているインド人に、次々と声をかけていく。もう時間だ!というタイミングでゴア行きのバスを見つけ、重いバックパックを背中で揺らしながら急いで近寄って、とりあえず訊く。「違う。そのバス会社のは、まだこれから来るんじゃないか」。
親切心からに違いないのに、心の隅では、また適当なことを、と思ってしまう…とにかく探し続けるしかない!
次から次へとバスがやってくる。探しつつ逆方向へ戻っていくと、さっきの女性が手を振って嬉しそうに「見つかった!」と知らせてくれた。手を振りかえし、見つかってどれだけほっとしているだろうと私も嬉しい気持ちになりながら、彼女が大急ぎで乗り込むのを見送った。
心もとない感覚が戻ってくる。もう発車時刻を過ぎているのだ…背中を汗が伝うのを感じた。
ふと気づくと、路肩には、バスを待つ人たちがずらーっと並んで、道路に向かって座っていた。街路灯がその人達の後ろにあり、影になって表情までは見えないがインド人が殆どのようだった。
よくみると、後方にバス会社の看板がついた小屋のようなものがいくつか建っている。小屋に灯りはついていないが、その看板に目を凝らしながら歩いているとき、つと立ち上がり、近づいてきた人がいた。
つづく。